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2020.06.29
話しベタな人が、みるみる話し上手になる科学的アプローチ

プロフェッショナル・プレゼンテーション研究会
川原 茂樹

1.はじめに

(1) 中小企業診断士に求められるプレゼンスキルとは?
 周知のことであるが、中小企業診断士は経営の専門家であり、中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行う。そして、最終的な成果につなげるには、クライアントが診断・助言の内容を理解し、心が動き、行動を変えることが必要である。つまり、相手の行動を変えるだけの話す力、プレゼンスキルが求められる。
 自分は正しく話したつもりでも、相手に伝わっていなかった、という経験はないだろうか。正しく話すことと、伝わることは違う。理解しない、行動しないのは相手の問題と割り切ってしまうと、成果も相手任せになってしまう。診断士が持つ能力を最大限に発揮し、クライアントに貢献するためにも、話す力、プレゼンスキルが重要なのである。

(2) 話すことに苦手意識を持つ診断士は意外に多い
 伝わる話し方、プレゼンとはどのようなものか。明確にイメージできている人は少ない。また、場数を増やせば上手くなるという考え方は危険である。個人差があり、数をこなしても上達を実感できないことが多い。そのため、苦手意識だけが強化されてしまう。
 本特集では、プレゼンスキルを効率よく上達させる科学的アプローチを紹介する。再現性があり、誰でも話し上手になれることを感じていただければ嬉しい。

(3) プロフェッショナル・プレゼンテーション研究会のアプローチ方法
 本研究会は、診断士に求められる「実践的なプレゼンテーション力」を身につけることを目的としている。毎月の定例会では全員が3分プレゼンを行う。3分という短い時間で、聞き手に学びと笑いを提供することを目指す。一般的にプレゼンは3分程度のスピーチを繋ぎ合わせることで構成できるため、3分プレゼンは基礎練習として最適である。
 本研究会は以下の3つの特徴を持ち、メンバーは着実にプレゼンスキルを伸ばしている。

 ①自分を客観視する
 スキルアップには、まず現状把握が必要である。しかし、自分が人前で話している姿を自分で見る機会は少ない。本研究会では、3分プレゼンの様子をビデオ録画し、各自が客観的に振り返りできる仕組みを用意している。

 ②目標を動作レベルにブレイクダウンする
 セルフチェックシート(後述)を使い、動作レベルにブレイクダウンした目標設定を行う。各自が主体的かつ具体的に目標設定することで、効果を上げている。

 ③モチベーションを維持する
 スキルアップには継続した取り組みが欠かせない。メンバー同士のフィードバックにはポジティブな言葉を使い、安心してチャレンジし続けられる雰囲気づくりを心掛けている。

2.話すことに自信が持てない理由とは?
 話すことに苦手意識を持つ人は、おおよそ以下2つの要因を持っている。本研究会のメンバーも例外なく、これらの苦手意識を抱えながら入会してきた人達である。

(1) 実力以上にうまく話そうとする(完璧主義)
 人前で話すことを特別なこととして考え、普段以上にうまく話そうとする。つい完璧主義に走ってしまうのだ。これは人間の自然な心理でもある。しかし、普段やっていない完璧なプレゼンを突然やろうとしても上手くいくわけがない。理想が高すぎるために、いつまでも理想に到達することなく、負け癖がついてしまう。
 プレゼンの目的は、相手に理解、共感してもらい、相手の行動を促すことにある。プロのアナウンサーや芸能人とは違い、我々診断士は流暢に話すことを求められているわけではない。それよりも、わかりやすく、少し面白い話し方の方が好まれる。このことに気づけば、解決の糸口が見えてくるのではないだろうか。

(2) 自己評価が厳しすぎる
202007_04_1.jpg 他人から見れば十分に上手い話し方でも、自分では問題だらけと認識している場合がある。たとえば、神宮司会員の場合、当初から堂々としたプレゼンで周囲から注目されていた。しかし、本人はあがってしまい、頭の中が真っ白、自分で何を話しているかわからないと言う。
 神宮司会員は本研究会に入会して数か月たったとき、自分のビデオを見ながら、ふと「それほどダメではないかも」と気づいたと言う。このように自己評価と他者評価を比較しながら、自分を客観視する機会を増やすことが、非常に重要である。

(3) 話ベタな人が、話し上手になるには?
 ちょっとした発想の転換をすれば、誰でも自信たっぷりに堂々と話すことができる。ポイントは「自信があるように、堂々と振る舞う」ということ。精神論ではなく、注意すべき動作を決めることから始める。形から入る、と言うとわかりやすいだろうか。できる・できないという能力の問題ではなく、やる・やらないという動作レベルでとらえる。本研究会で使用しているセルフチェックシートはそのためのツールである。
 つまり、認識と行動を変える決断をすれば、プレゼンスキル向上の道が見えてくる。
 下の図表1は話ベタな人の問題構造を示している。理想と現状のギャップが大きすぎるため、やる気も起きず、上達が困難である。
 一方で、図表2は話し上手になれる人の捉え方である。現状と理想の認識を適切に修正することで、ギャップを縮め、ムリなくスキルアップできる環境を整えている。
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3.自分を客観視する仕組みと効果

 プレゼンスキルの現状把握のために、本研究会ではビデオ録画を活用している。自分自身のビデオを見て客観視する仕組みである。では、客観視する効果とは何だろうか。

(1) 自分の本当の姿に気づく
202007_05_3.jpg ビデオを見て自分を客観視する最大の効果は、自己認識を修正することにある。我々大人は、思い込みが激しい。他人から意見・アドバイスされても、なかなか自己認識が変わることはないが、自分で気づくことで、認識を改めることはできる。自分の良い面も改善点も客観的に認識することで、適切な目標設定が可能になる。

(2) 自分の動作と結果をリンクさせる
 さらに、自分のビデオをダウンロードし、30回以上繰り返し見ることを推奨している。飽きるほど見る。そうすると、無意識の領域で、自分の動作と外から見えている実際の姿がつながって見えてくる。つまり、どういう動作をすると、外からどのように見えるのか、予測できるようになるのだ。他人から見られている姿を自分でイメージでき、高速にPDCAを回せるようになる。


4.セルフチェックシートを活用した動作レベルの目標設定

 自分自身で改善点がわかった後、具体的にどのように改善していけばよいのだろうか。本研究会ではセルフチェックシート(下図)を使い、各自で動作レベルまでブレイクダウンした目標設定を行うようにしている。チェックポイントは、心構え4つ、動作10が用意されており、この中から1、2個を選ぶ。多くを望むと集中して取り組むことが難しくなるためだ。3分プレゼンの前に、各自が目標設定を宣言し、共有する。自分で宣言することで、意識付けが強化される効果がある。

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 では、セルフチェックシートを使うことで、目標設定がどのように具体化されるのか。いくつかの例をご紹介する。

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(1) アイコンタクト(チェックポイント:一人ひとりと3秒以上、目を合わせる)
 プレゼンテーションの基本は、アイコンタクトから始まる。目標は一人ひとりと3秒以上アイコンタクトすること。聞き手が大勢でも動作は同じである。1対1で会話しているように、一人の相手と目を合わせる。ほかの参加者もそれを見て、見られている感覚になる。そうすると、聞き手は本当に1対1の会話のように、話に引き込まれていく。
 最初は難しく感じる人が多い。普段通りでいいと言われても、余計なことをしてしまうからだ。他メンバーのやり方と比較しながら、動作を修正していく。一方でアイコンタクトが不十分な場合は、聞き手との距離感が遠くなり、集中して聞いてもらえなくなる。

(2) スピードと間(チェックポイント:普段の1.5倍の速度、句点で1秒以上間を取る)
 わかりやすい話し方とは、ゆっくり話すものと思っている人が多いが、それは誤解である。ゆっくり話すと、聞き手は眠くなる。3分でも集中力が続かない。
 プロの話し手は、ゆっくり話しているようで実は早口である。目標は話すスピードを1.5倍に上げて、句点で1秒以上間を取る。これで、テンポ良く、聞き取りやすくなる。一見相反するスピードと間の両立がポイントである。間違った知識、思い込みでは、目標設定も誤ってしまう。

(3) 問いかけ(チェックポイント:質問を投げたり、挙手を求め、3秒以上待つ)
 一方的に話すと聞き手はすぐ退屈になる。聞き手とのやりとり、双方向型のプレゼンを目指したい。目標は3分スピーチの中で1回以上問いかけをすること。
 問いかけと言っても、簡単なことでよい。たとえば「〇〇について、聞いたことがありますか?」など、聞き手の知識や関心度を確認する。簡単なクイズを出すのもいいだろう。「A, B, Cのどれかに手を挙げてください。」と言って、挙手を求めるのも定番である。
 問いかけの後、3秒以上待つことも重要なポイントだ。待つことで、聞き手の行動を促し、参加意欲を高める。さらに、相手の反応を拾い上げて話をつなぐと、聞き手との関係性をより近づけることができる。

(4) ボディランゲージ(チェックポイント:腕を大きく伸ばし、全身で表現する)
202007_08_1.jpg プレゼンスキルは話し方だけでなく、体を使った表現も重要である。話す内容と動きの関係はとくに気にせず、大きくゆっくり動かせばいい。目標は腕を大きく伸ばす、背筋を伸ばして前後左右にゆっくり動くこと。自然に体が動く程度でも十分プロっぽく見える。
 荒木会員(右写真)は大きくダイナミックな動きで注目を集めている。少しオーバーなくらいが個性的と評価される例である。


5.オンラインでのプレゼンスキル

 昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、集合型のイベント開催が困難になっている。本研究会もZoomなどのツールを使い、オンライン開催にチャレンジしている。オンラインで参加者を巻き込むプレゼン力は、今後ますます重要なスキルになるだろう。

(1) 参加者にマイクを使わず参加してもらうには
 多人数でオンライン会議を行う場合、発言者以外はマイクをオフ(ミュート)にすることが多く、意思疎通が難しくなる。場の一体感もつくりにくい。本研究会で試行錯誤した結果、以下の3ポイントに注意すれば、良い雰囲気で運営できることがわかった。
 ①普段の3割増しのリアクション(大きく頷く、表情もオーバーに)
 ②共通のジェスチャー(手でOKサイン、発言したいときは手を挙げる、など)
 ③各自で笑顔チェック(3分に1回、意識して口角を上げる)
 特徴的なことは、全てノンバーバルのコミュニケーションであることだ。発表の前に、これらのルールを1つずつ伝え、参加者に練習してもらうことで、一体感がさらに高まる。


6.おわりに

 これまで、診断士が身に付けたいプレゼンスキルの上達法について見てきた。すでに知っている方法もあれば、意外な方法もあったのではないだろうか。
 本研究会では、蓄積したノウハウをメンバーが活用しやすくする仕組みを用意している。メンバーは1年程度の短期間で着実に力をつけ、セミナーや研修の自主企画に取り組むまでに成長している。プレゼンスキルの向上により、活躍の場は大きく広がっている。

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