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2021.01.28
中小企業施策研究会のアウトプットとしての経営支援事例

中小企業施策研究会
牛嶌 一朗
小川 良佳、瀬尾 千鶴子、櫛田 正昭 他

1.はじめに
 2004年4月に設立された中小企業施策研究会は、「日本国と東京都の中小企業施策を体系的に研究・理解し、これを中小企業経営支援の実践現場に普及・定着し、適切に経営支援に活用していくこと」(会則第2条より)を目的に、国や自治体、その他の中小企業支援機関の実務者を講師とした、最新の中小企業支援施策についての講義と質疑によるインプット形式の研究会である。2020年3月末時点で約80名の会員を擁している。
 当研究会での長年に渡る各種支援施策の会員へのインプットにより、当研究会はそのアウトプットとして、それら施策を有機的に連携させた会員個々の支援の「質」の充実による支援の深化(=支援の「タテ」方向の強化)とともに、講師を務めていただいた中小企業支援機関と連携した実践部隊(一般社団法人)設立による、支援対象企業の拡大(=支援の「ヨコ」方向の強化)を実現してきた(図表1)。本論文では、それらの具体的な成果について報告する。

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2.中小企業施策研究会で取り上げた施策の概要
 2014年度から2019年度の5年間に、当研究会例会で取り上げた主な中小企業支援施策は図表2の通りである。各年度の講演内容は、前年度12月の例会で会員間で協議のうえ、次年度計画として策定している。講師を依頼する支援機関には、支援施策の定点観測的な側面から毎年講演を依頼する支援機関と、会員の希望を勘案のうえ、新たに講演を依頼する支援機関がある。
 なお、毎回の例会の講演内容については、定型フォーマットによるA4/1枚の議事録にまとめ、会員に展開している。これは、講演で紹介された支援施策の概要が一目で把握できるデータベースとしても活用可能となっている。

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3.中小企業支援の深化=支援の「タテ方向」の強化
 当研究会会員は、個人の活動において、研究会例会でインプットされた各種施策を有機的に組み合わせ、支援内容を深化させることで効果的な個社支援を実現している。ここでは、以下にその代表的な例を示す。

(1)下請け体質脱却のための新商品開発と販売促進支援:㈱エム・コーポレーション
 当社は1997年に埼玉県川口市で設立され、長年国内大手電機メーカーの下請企業として事業を営んできたが、元請企業の業績低迷による発注の減少により、2014年度には3億円であった売上が、2015年度には7割減の1億円以下になるなど、大変厳しい経営状況となっていた。当社はその下請体質脱却のための新商品開発として、2015年度から防水・防塵性の高いPCやモニターの設計製造にチャレンジすることとなった(図表3)。

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 当研究会会員は、商品開発後半から支援に入り、研究会例会でインプットされた知識・知見をもとに、当該新商品開発を軸とした経営革新計画認定のための支援、HP改定や販促物作成のための経済産業省の小規模事業者持続化補助金経営計画策定支援、花卉園芸農家の生産性向上に向けたコラボレーションのための経済産業省・農林水産省の農商工等連携事業計画策定支援、顧客開拓・関連企業とのコラボレーションのための中小企業基盤整備機構の販路開拓コーディネート事業利用に関する支援を行い、防水・防塵PCやモニターについて販路を拡大した。さらには防衛関係や原子力関係の納品を達成するなどにより、当社の下請体質脱却に貢献した。これにより、当社は、2019年度には売上高は2億5千万円となり、経常利益も大幅に回復している。

(2)新規事業への積極展開と商圏拡大支援:㈲中里商店
 当社は1927年に埼玉県深谷市で和菓子製造業として創業し、その後の業態変更により、冷菓卸業をへて、国内大手飲料メーカーの自動販売機の管理・運営を長年にわたり営んできた。そのようななか、当社は売上拡大のための新商品開発に乗り出した。深谷市の地下200mから汲み上げた100%地下水の商品化・販売を目指し、2014年に深谷市環境水道部とのコラボ企画商品「ふっか水」として販売を開始、現在ではふるさと納税での人気上位商品にもなっている(図表4)。

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当研究会会員は、そのようなユニークな事業活動を行う当社に対し、研究会例会でインプットされた知識・知見をもとに、自動販売機のIoT化と無人防災倉庫化を核とした経営革新計画策定の支援を行い、2018年度と2019年度の2回の認定を受けることに貢献した。また、実際にWi-Fiを利用した自動販売機の在庫や故障を把握するオンラインシステムを開発・導入する際に、複数回のものづくり補助金や持続化補助金の取得を支援、その実現に貢献している。このシステム導入は、当社の自動販売機に対する巡回業務の大幅な削減に寄与、その効果もあり、当社は2019年度の売上を273.3百万円と、2013年度の売上192.0百万円の1.4 倍にまで拡大している。
 なお、その過程で当研究会会員は、2019年度には事業承継補助金の取得を支援、当時70歳代であった同業他社の経営者からの事業譲渡を実現することで当社の商圏を拡大、事業の継続性確保についても貢献している。この取組みにより、商圏の拡大とあわせ地域の雇用も増やすといった積極的な事業展開を実現している。さらに当社は、2020年10月から自動販売機をはじめとする印刷・ラッピング事業を開始するとともに、地域FM局の開局にも関わることで、メディア事業にも進出している。

(3)生産性向上と海外展開支援:機械製造業E社
 東京都内に本社、関東圏に生産・開発の拠点をもつ当社は、長年にわたり、産業・環境・建設用機械の製造を事業として営んできたが、2017年度に生産性向上と海外への販路拡大による売上拡大を目指すこととなった。当研究会会員は、研究会例会でインプットされた知識・知見をもとに、経営革新計画策定の支援のほか、生産性向上のためのロボット機能付き製造機械や生産状況の確認ソフト導入に向けたものづくり補助金やIT補助金、省エネ補助金の取得支援、東京都のロボット導入・活用支援事業の活用を支援し、当社の生産性向上のための環境整備に貢献している。さらには、当研究会会員は、国土交通省が新技術情報の共有および展開を目的に運用するNETIS(新技術情報提供システム)への当社製品情報の登録や経済産業省の地域未来牽引企業への採択についても支援、当社の高い技術力に対する認知を高めることを通した顧客に対する訴求拡大につなげ、国内外での新規販路拡大の実現についても貢献している。これらの取組みにより、当社の2019年度の売上は、3年前の売上から大幅に拡大している。
 なお、当社は現在、自社製品のJIS化(標準化)施策を進めており、当研究会会員は弁理士と協力してその支援にも携わっているところである。

4.支援対象企業の拡大=支援の「ヨコ」方向の強化
 2015年8月の当会例会にて、西武信用金庫の当時の常勤理事(現在の理事長)である高橋一朗氏より、同金庫が財務の「目利き」と支援のネットワークづくりによる中小企業に対する事業活動支援を中心としたビジネスモデルにシフトしていることを紹介いただいた。この例会での講演を契機として、西武信用金庫との「支援のネットワーク」としての連携を念頭に、当研究会会員有志が中心となり、2015年12月に中小企業支援活動の実践組織として渋谷区中小企業診断士会を設立、2016年3月に一般社団法人化した(図表5)。

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 その後、(一社)渋谷区中小企業診断士会は、当研究会会員以外からも幅広く会員を募り、現在は約70名(2020年3月末時点)の会員が、総務部・経理部・実務従事推進部・能力開発部・地域支援部・広報部の6部体制の下、当研究会から独立した支援活動を展開している(図表6)。

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 その活動においては、設立の契機となった西武信用金庫との連携を継続しており、渋谷区の中小企業を中心に、2016年度から2019年度までの4年間に図表7の支援実績を達成している。

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 なお、同診断士会では上記の西武信用金庫との連携による活動のほか、2017年度から2019年度まで3年間連続して認定創業スクールを開催するとともに、2016年度から2019年度の4年間に実務従事36件、実務補習10件に対応することで、同診断士会以外の中小企業診断士のスキル担保への貢献などの実績も着実に挙げているところである。

5.今後の予定
 以上のように、中小企業施策研究会では、会員への最新かつタイムリーな中小企業支援施策のインプットを通し、東京協会会員による中小企業支援活動の質・量の充実に貢献してきた。今回の新型コロナウイルス感染拡大では、研究会例会での支援機関講師による講演が3月から6月の計4回にわたり休会になるなど、著しい影響が出ていたが、7月からはZoomによるリモート講演を実現、今後もその形態での例会を軌道に乗せていくことを目指している(図表8)。

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 これにより、当研究会の活動の根幹となる会員への最新かつタイムリーな中小企業支援施策のインプットを継続、引き続きwith/afterコロナ禍での会員個々による中小企業支援の深化に寄与していく所存である。

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